麻の栽培 1

一本の糸のように細く、まっすぐと空へ伸びるこの植物をご存じでしょうか?

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 これは、「大麻・オオアサ」です。

私たちは「トチギシロ」という種類の国産麻を種から栽培し、精麻・麻紙・麻炭に加工し出荷・販売を行っています。

日本人と麻の関わりは古く、縄文時代の極めて早い時期(約1万年前)には既に日本の広い地域に生育していたことが、考古学的な発掘から明らかになっています。縄文や弥生時代の遺跡からは麻縄や編み物、布片なども出土しています。

私たちが麻作りをしている栃木県鹿沼市から麻が商品として出荷されていた忠実としては 1600年代の中頃から末頃にかけて盛んに江戸に送られていたという記録が残っています。

さらに 1700年代には江戸市場や千葉、茨城などの海岸地域に漁網やとじ紐、凧糸などの原料として出荷されていたようです。そして明治時代中期頃になると、鹿沼市や栃木市などにも紡績工場や製鉄工場ができ、麻はこの地域の重要な産業になりました。

大麻・オオアサと聞くと皆さん驚かれると思いますが、このトチギシロは品質のいい白木という品種に、無毒の在来種をかけあわせて1974年から品種を改善しており1982年に品種名「トチギシロ」として種苗登録されました。無毒アサ、無毒大麻と呼ばれTHC含有率は0.2%で産業用ヘンプの基準にも適合し、無毒の状態は毎年検査され保たれています。

第2次世界大戦以前、大麻は全国各地で栽培されていました。そのため栽培方法や各作業の手法、道具の呼び方は地区によって多少異なりますが、このHPでは私たちの畑で受け継がれてきた大麻の栽培と加工方法をご紹介したいと思います。

 

 

 

麻は背丈に比べて根の張りが短く、土を柔らかくし過ぎると根が深く潜り倒れやすくなるため、なるべく根を横に這わせてしっかり立たせる必要があります。そのため3月中旬の「地ごしらえ」から麻作りが始まります。

畑の土を細かく砕土し、石や雑草などを除きながら平らに整地していきます。

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機械が引いている道具は「振り馬鍬・フリマンガ」です。

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機械がなかった頃は二人1組で向かい合い、振り馬鍬の取ってを持ち左右に揺らしながら土を掻いたそうです。男女関係なく行なう作業で二人の息が合ってないと上手くいかない難しいものだったと聞いています。夫婦で行なう場合も多く地区によっては「夫婦馬鍬・フウフマンガ」と呼ぶそうです。

現在の地ごしらえは機械を使い効率よく進められるようになりましたが、振り馬鍬は土に深く入れすぎると土が固くなり種の発芽を妨げてしまいます。反対に浅すぎても種が浮いてしまい鳥などに食べられてしまうため、畑毎の状態をみて作業を進めています。

 

 

3月下旬~4月上旬。地ごしらえを終え整地した畑に種を蒔きます。種蒔きは土の表面が乾いて中が湿っている状態が良いため、晴天の続く日を待ち総動員で行います。

 

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       写真①                  写真②

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       写真③  

写真①これは麻専用の種蒔き機で「播種機・ハシュキ」という木製の種蒔き機です。この播種機は、畝立て兼用で種を均等にしかも効率よく蒔く事が出来るうえ、蒔く量も調節出来る便利な道具です。木製の円盤に鉄棒の突起が放射状に取り付けてあります。(写真②)これは畑のような土のやわらかな場所で、車輪が空回りしないように付けられたものです。

重さは10キロ程あり、引き始めの朝はたいした重さを感じませんが、夕方にはとても重くずっしりと感じます。種を蒔いた後は足の裏で土を感じながら「土かけ」写真③を行います。種を揃えて発芽・生育させる為に、かぶせる土の量を均等にしなければならない、とても重要な作業の一つです。1日中ずっと摺り足で種に土を掛けるので夕方には腰とお尻が痛くなります。スタッフの1人は「この作業が一番きつい!!」と話していました。

 

 

 

 

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種を蒔いてから7日~10日後の畑です。この先は成長が遅れている麻に随時追肥をしながら、畑全体に広がる麻の成長を揃えていきます。

 

 

 

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種を蒔いてから約20日後です。根元に酸素を送り、水はけを良くするために畝間の除草と土寄せの作業「中耕・チュウコウ」を行います。中耕は2回行われ、1度目の中耕を「細掻き・ホソガキ」2度目の中耕を「太掻き・フトガキ」といいます。

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       写真④                  写真⑤

この道具は「麻掻き・アサカキ」(写真④)といいます。地区によってはアササクリ、アササクレと呼ぶ事もあるそうです。

1度目の中耕、細掻きは麻が10~12センチの頃に行ないます。刃の細い方を下にして刃と刃の間に麻を通しながら引いていきます。(写真⑤)

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土の硬さによって持ち手の角度を変え、足で麻を感じながら後ろ向きに進んでいきます。せっかく芽を出した麻を踏まないように注意し足で麻を感じる感覚を身につけるまでには経験と時間が必要です。

 

2度目の中耕、深掻きは麻が20センチの頃に行ないます。麻掻きの向きを逆にし、刃の太い方を下に向け行ないます。

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写真が少し分かりにくいですが、一ヶ月後の畑です。40~60センチにまで成長します。

 

 

 

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二ヶ月後の畑です。120~140センチに成長をします。

毎朝、畑に行き麻の成長具合を確認しながら、日に日に私の目の高さにまで育ち大きくなってゆく姿に凛とした気持ちになり、植物の逞しさと力強さを感じます。

 

 

 

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背丈が160センチ程に成長したら細すぎるもの、虫に食われたもの、成長が遅いものを間引きします。昔は間引きを「アサスグリ」や「麻起こし」と呼び成長が遅いものを「オクレ」傷ついたものを「クズ」と呼んでいたそうです。

このトチギシロという種類は倒れにくく改良された品種なので、この時点で倒れてしまう麻は昔ほど多くはありませんが、今でも倒れた麻を起こし数本をひとつにまとめ、クズ麻で結い根元の土を固めて倒れないようにしています。

 

この間引き作業はその年の精麻品質に大きく影響します。なぜなら曲がってしまった麻茎は麻ひきしにくくなり、たとえ麻引きを行なってもよれてしまう可能性が大きいからです。また大きな傷がついた麻茎は精麻となる表皮に傷が付いているので品質が落ちてしまいます。

そのため互いの麻茎を傷つけないように整理しながら間引きを進めます。

 

 

 

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三ヶ月後(6月下旬)収穫間際の麻畑です。背丈は200~230センチに成長します。近年は台風時期が早くなり、予期できないゲリラ豪雨が発生するようになりました。今まで大切に育ててきた麻が台風や大雨で傷んだり、倒れてしまわないように願う毎日です。

 

 

 

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       写真⑥                   写真⑦ 

写真⑥は種を蒔いてから約110日後、260センチにまで成長しました。これまでの濃い緑色から淡い緑色に変わると、いよいよ収穫が始まります。

収穫は刈り取らずに手作業で根ごと引き抜きます。「麻ぬき」といい、茎を5、6本一掴みに握り両手で手前に引きながら根を折るように一気に引き抜きます。そして根に付いた土を払い、根の方を交差させるようにして畑に積み重ねて「塚・ツカ」にしていきます。(写真⑦)

このように交差させて積むのは崩れるのを防ぐためと、この後の根切り、葉打ち作業をしやすくするためです。

 

 

 

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これは「麻切り包丁・オキリボウチョウ」といい直刀で、刃渡りが大体50センチある麻専用の道具です。これを使い根を切る「根切り・ネキリ」と葉を落とす「葉打ち・ハウチ」を行い、茎だけになった麻を直径20~25センチに束ねます。

 

 

 

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殺菌と収穫の際に付いた傷や汚れを落とす為、湯が煮えたぎった「鉄砲釜・テッポウガマ」で「湯掛け・ユカケ」を行います。麻の半分を湯に入れ、色が鮮やかになり茎から泡が出て数秒時間を置きひっくり返し、もう半分も湯掛けします。

煮る時間が短いと麻が青くなり、長いと品質が落ちてしまうため湯の中での微妙な色の変化を感じ取らないといけません。とても神経を使う作業です。

 

 

 

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湯掛けした麻を風通しの良い干し場で、地面に着かないように竹を下に敷き、その上に並べ毎日ひっくり返しながら3~4日干します。雨に当たると品質が落ちてしまうのでゲリラ豪雨や台風には注意が必要です。

乾燥した麻を「〆麻・シメソ」といい、〆麻を直径45センチ程の束にして「〆麻束・シメソタバ」にします。そして乾燥している納屋へと一時保管し、一番の大仕事「収穫」が終わります。

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麻抜き→湯掛け→麻干しまでの行程を1日で行います。また育ち過ぎても良質な精麻に加工出来ない事と、この後の「床臥せ」時期も関係し、収穫は総動員で早朝3時~陽が暮れるまで。8月の中旬までの晴れた日はほぼ毎日行われます。